#6 / 坊垣佳奈

#6 / 坊垣佳奈

Kana Bougaki

株式会社マクアケ共同創業者・取締役

同志社大学文学部出身。2006年株式会社サイバーエージェント入社。株式会社サイバー・バズの他ゲーム子会社2社を経て、株式会社マクアケの立ち上げに共同創業者・取締役として参画。主にキュレーター部門、広報プロモーション、流通販路連携関連の責任者としてアタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」の事業拡大に従事しながらも、 様々な地方エリアでの講演や金融機関・自治体との連携などを通した地方創生にも尽力。またマクアケには女性社員が多く、多様なライフスタイルを望む若い世代の活躍推進を意識した組織運営を推進している。

応援購入で“消費活動”を変える。
マクアケ・坊垣佳奈さんが目指す世界。

「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」――これは、坊垣佳奈さんが取締役を務める、株式会社マクアケが目指すビジョンです。クラウドファウンディング領域で、“寄付”ではなく“応援購入”という新しい消費活動を築こうとしている坊垣さん。「何かを諦めることなく生きられる社会をつくりたい」と話す彼女は、この20年を通してどんな価値観を得てきたのでしょうか。

シチュエーションによって変えたいバッグ。

「母がラシットのバッグを使っているんです!」と、笑顔で撮影に臨んでくれた坊垣さん。「無地のバッグならどんな服にも合わせやすいし、出張先に持っていってもよさそう」と話してくださいました。普段、バッグはどんな基準で選んでいますか?

「仕事用なら、パソコンが入って肩掛けができて、軽いこと。あとは、出張先では同じバッグで2〜3日過ごすこともあるので、どの服にも合わせやすいことが重要です。仕事用に持っているバッグは3種類くらいなんですけど、カジュアルすぎるのは避けようと思っているので、ある程度は決まっていますね」

ON/OFFの切り替えにもバッグが一役買っているそうで、プライベートのバッグは場所や会う人によって変えているといいます。

「すごくカジュアルにしたい気分になるときがあるんですよ。海だったらビニールバッグを、公園ピクニック用なら四角くてワインが入るカゴバッグを、とか。バッグはシチュエーションによって一番変えたいアイテムかもしれないですね。

ステイホーム期間中には“財布と携帯だけ入れてちょっと出かける”機会が増えたので、大袈裟にならない小さなバッグを2つ新調しました」

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過渡期を生きる女性が、これからをつくっていく。

20年前は同志社大学に在学中で、京都に住んでいた坊垣さん。このときに得た“古き良き”ものを大切にする感覚は、現在の自身の価値観にも生きているといいます。

「“新しいものだけがカッコイイわけじゃない”という感覚は京都で養えたと思います。京都の街並みの中には、重要文化財の町屋や、歴史上の出来事が記された石碑などがありました。そういう場所に身を置くことで、技術や思想など、残るべきものが残ってほしいと、当時から感じていたんです」

また、就職活動をはじめたころから、「女性として生きる上での時代の変容を感じていた」と話します。

「母はもともと小学校の先生だったのですが、2年で辞めて主婦になりました。でも、私自身はきっと働くだろうと思っていたんです。親の世代の感覚とはもう違っていて、自分たちが過渡期を生きているという実感があったし、これからもっと変わっていくだろうと。

変わっていく中で自分はどうありたいのかを考えたときに、誰かの決めたルールの中で生きるのではなく、自分が作っていくしかないんだろうなと感じていました。“何かを諦めないで生きられる社会”を、他の誰かが作ってくれる気はしなかったんですよね。それで、会社を立ち上げるような方向に進んだのかもしれません」

入社3年で会社の仕組みを理解した、忙しくて“紙一重”な日々。

“自分がやりたいことを諦めないで生きられる社会”を作っていくための選択として、2006年、坊垣さんはサイバーエージェントに入社。最初の配属先が新会社の立ち上げを行う部署だったこともあり、サービス関連のことをひと通り自分でこなしたといいます。

「インターネット産業がまさに伸び盛りで、寝る間も惜しむほど忙しい日々を送っていました。もちろん、その頃の働き方を良しとしているわけじゃないんですが、自分の限界までやりきる体験は、今の礎になっていると思います。

当時はブログが流行しはじめた頃で、ブロガーのネットワークシステムの立ち上げを担当しました。エンジニアリングについて何もわからないまま、外注先を探してきてコンペして、プライバシーポリシーや規約を書いて、会員の仕組みを作って、サポートをやって、経理も法務も人事も全部やりました。『会社ってこう成り立っているんだ』っていうのが、最初の3年で理解できたんです。大変なことは多かったですが、それはとても感謝しています」

過去を振り返り、過労で倒れてしまう人と「自分は紙一重だったと思う」と話す坊垣さん。自分が辛い経験をしたからこそ、部下になった人の個性をとても大切にしているそうです。

「休業していた女性が復帰して、私の部下になることも結構あって。人それぞれ、辛いと思うことや悩むことが違っていたり、体力も違えば体質も違うから、その人に合った声かけをするようにしています。自分なりの働き方を見つけてほしい」

クラウドファンディングではなく応援購入。

2013年には当時の同期と共に株式会社マクアケを立ち上げ、クラウドファンディングプラットフォームMakuakeが誕生。しかしながら坊垣さんは、「広めたいのは、クラウドファンディングという仕組みではない」と話します。その真意とは?

「最近Makuakeでは、“クラウドファンディング”ではなく、“応援購入サービス”と表現しています。私たちはこの仕組みを使って、産業支援をしたいんです。日本においてのクラウドファンディングは東日本大震災の後に立ち上がっているものが多く、当時は寄付の領域で成り立っていました。後発組の私たちがやるべきことはそこじゃないというのは、立ち上げ当初から考えていて。

人間のお金の使い方って、大まかに『消費』か『投資』か『寄付』に分けられます。そのなかで、圧倒的に大きな割合を占めているのは『消費』。新しくて価値あるものを生み出そうとしている人たちのところに、『応援購入』というかたちでお金を流したかったんです」

価値を決めるのは、私たち一般消費者。Makuakeでは公平なプラットフォームであろうとするため、プロジェクトを立ち上げる際に実現性という観点で審査は行いますが、それが売れるかどうかといった審査はしていません。
「もちろん、最低限のルールはあります。『公序良俗に反さない』とか、『応援購入したサポーターと約束したものがちゃんとリターンで返せるか』といったチェックをしていますが、欲しいかどうかの判断は消費者であるサポーターが決めるというポリシーなんです。
Makuakeが新しいものの発表の場になっていけば、本当に良いもの、必要とされているものが選ばれる時代が訪れるのだと思います」

ダイレクトコミュニケーションだからこそできること。

“応援購入”が普及すれば、大量生産・大量消費・大量廃棄を続ける資本主義社会の仕組みを変えることができるのではないか――。坊垣さんは、インターネットの可能性について、こう話します。

「インターネットを媒介すると、生産者と消費者が遠くなるように感じるかもしれないですが、実はダイレクトコミュニケーションの世界なんです。どんな人が購入してくれたのか透けて見える。より良いものが売れる世界になっていくと、作り手も『いいものづくりをしよう』と変わっていくと思うんです」

資本主義の社会の中では、作り手が今の構図を変えていくのは難しいけれど、消費者の意識が変われば構図を変えていけるはずだと、坊垣さん。大量にものをつくり、売れなければ在庫を抱えてしまう現状を変えていけるのではないかと話します。

「ファッションって基本的には先に流行を読んで、どれかが当たればいい、みたいな選択になってしまうと思うんです。でも、応援購入の仕組みが広まれば、それを回避できるかもしれない。Makuakeの場合、カラーの人気傾向も先にわかるので、例えば緑色が売り切れているのに白色が売れていないとしたら、量産するタイミングでは生産量を調整する判断材料にできるんですよ」
Makuakeが行っている新しい消費行動への仕掛けづくりは 、ものづくりの本質への回帰に繋がっていくように思えます。

「明日届かない」を楽しみに待つ消費体験。

名刺入れに手帳……。坊垣さんの持ち物に対して「素敵ですね」と伝えると、ひとつひとつのエピソードを教えてくださいました。

「ものへの愛着って、もちろん使っているうちに湧く部分もあると思うんですけど、作り手やストーリーが見えると、大事にする気持ちがより大きくなります。例えば、私は以前ブランドの名刺入れを使っていたんですけど、結城紬の名刺入れに変えてから圧倒的に愛着が湧きました。これは、作っているところを見せてもらったんです。糸一本一本を蚕から紡いで、織り機でガシャンガシャンと織っていく……、その営みがとても美しいと思ったんです。そこに愛があって、楽しそうに仕事をしている人たちだと感じました」

坊垣さんはMakuakeを通じて、“作り手が見える”生活をしているので、ものを手にとったとき、その先を想像できるようになったといいます。

「そうすると、日常でも人を思いやったり、ものを大切にしたりといったところに繋がる気がします。先日、知人と話して納得したのですが、工芸品って手作りのものが多いから、大切に使わないと割れたり壊れたりしますよね。それって、『大事に扱う』という所作を学ばせてもらっていることなのだと。プラスチックは落としても割れなくて便利ですけど、そこから学べることはないと思う」

この社会では便利さや快適さを追求し、欲しいものを注文したら“明日届く”のが当たり前になりました。しかしながら、待つことの楽しさも感じてほしいと、坊垣さん。

「プロジェクトが成功してから届けるまでの期間は半年内くらいで、という約束なんです。そもそもこの世の中にまだないものだから、すぐ届かないんですよ。でも、こだわりたいものや、ずっと探しているようなものって、今日見つけたからといって明日届かなきゃいけないわけじゃない。それを待つ時間を楽しみにしてほしいです」

「人々が物事の本質を見る時代になってきている」。

女性が自ら生き方を選択できるようになる過渡期を生き、社会を変えていこうとしてきた坊垣さんに、今の時代をどう捉えているか、そして20年後にどうなっていって欲しいかを聞きました。

「人々が物事の本質を見るようになってきているように感じるので、徐々に良い時代になってきていると思います。戦後、経済成長が必要だった時期は、なんとか生きていくこと、稼ぐことが目的になっていた。けれど、人間の欲求ってそこが満たされると自己実現になり、それが叶うと、今度は社会貢献になるんだそうです。

時代が進んでいくと、精神的豊かさを求めるようになるはず。まさにヨーロッパや北欧では福祉がすごく発達していて、税金が高くても誰も文句を言わなくて、みんなでいろんなことをシェアする生活が成り立っている。

極端な話をすると、そうなっていかない限り、環境破壊なのか、戦争なのか、貧富の差なのか……、人類が滅びることが、決して遠い世界の話じゃないと思うんです。この10年、20年で経済的発展の進度と、人間が本質に向き合う進度のベクトルの拮抗が、追いつくか追いつかないかで、世の中変わるんだろうなって。自己の利益追求だけをしている人に任せていたら、やっぱり破滅の方向に行ってしまう。

日本では、私たちより若い世代は特に社会貢献したいという人が増えています。だからこそ、世代が変わっていったら良い世の中になるはず。その第一歩を私たちの世代が作らなくては」

坊垣さんは、「一人ひとりが変わらなければ、社会は変わっていかないと思う。それなら、せめて自分だけは諦めないでやっていきたい」と話していました。

IT業界でがむしゃらに働く中で得られた充実感とともに覚えた違和感を、無かったことにせず課題化し、部下と向き合っている姿が印象的だった坊垣さん。「次の世代へいい社会を残していきたい」と笑顔で語る彼女に新しいリーダー像を見て、この先の社会のあり方に希望を持てるとともに、明るい時代の幕開けを感じました。

さいごに

新しい時代の“日常”を創る女性たち6人にインタビューしてきた、ラシット20周年企画。日常の中で見つけた課題に取り組み、前を見据えて歩みを続けている彼女たちが先導してくれるこれからの時代は、希望にあふれているように思えました。

新しい時代の“日常”を創っていくのは、あなたであり、私でもあります。ラシットは、その日常に寄り添い、しなやかに生きる女性にエールを送り続けます。

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  • ITEM NO : CE-296
  • PRICE : ¥23,100
  • SIZE : W32×H24×D15cm
  • photo: WATARU KAKUTA
  • text: CHIHIRO KURIMOTO