#4 / 岡島礼奈

#4 / 岡島礼奈

Rena Okajima

株式会社ALE 代表取締役社長/CEO

鳥取県出身。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役社長/ CEO。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げる。宇宙エンターテインメント事業と中層大気データ活用を通じ、科学と人類の持続的発展への貢献を目指す。

人工流れ星をエンターテインメントに。
株式会社 ALE ・ 岡島礼奈さんの「星と歩んだ20年」。

「この20年、星とともにあった」と話すのは、株式会社ALE代表取締役社長/CEOの岡島礼奈さん。天文学を専攻していた大学院生のころ「流れ星を人工でも生み出せるのでは?」と着想、科学とビジネスと結び付けて“人工流れ星”を実現しようとしています。宇宙ベンチャーの代表でありながら、「バッグの中から子どものおもちゃが出てきた!」と、お母さんとしての顔も覗かせる岡島さん。彼女にとって、この20年はどんな時間だったのでしょうか。

バッグは“物の定位置”。

岡島さんが普段使っているバッグは、買ってから3年以上になるそう。選ぶときのポイントは、「丈夫なこと」「軽いこと」「パソコンやA4サイズの書類が入るサイズであること」。

「荷物が多いので、出し入れのしやすさや、バッグを開いたときに中身が全部見えるかどうかも重要。あとは肩にかけられるタイプが好きですね」

大事な物はバッグに入れるようにしているという岡島さん。自粛期間中で、おでかけできない時期も、バッグは“物の定位置”として活躍していました。

「私にとってバッグは、大事なものを入れておくための収納でもあるんです。なるべく物の移動はさせたくないから、ひとつのバッグを仕事でもプライベートの両方で使っています。だから今日みたいに、子どものおもちゃが出てくることも(笑)」

撮影に使用したラシットのバッグはどうだったでしょうか?

「見た目がとても上品ですが、軽くて機能性が高いことにびっくりしました。開口部の左右をボタンで留められるのもいいですね。物を取り出すときには広げられて、持ち歩くときはコンパクトになるのが便利だと思いました」

color: Ecru

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学生時代の思いつきが事業に発展。

岡島さんが代表取締役社長/CEOを務める株式会社ALEでは、流れ星を人工的につくり出そうとしています。最初に“人工流れ星”を着想したのが、東京大学大学院理学系研究科の天文学専攻にいた2001年のこと。岡島さんにとっての20年は、まさに星とともにありました。

「しし座流星群を見たときに友人から流れ星の仕組みを聞いて、それなら人工的に発生させることができるのではないかと思いついたんです。そもそも流れ星とは、宇宙に漂う塵が地球の大気圏に突入したとき、燃えながら明るく輝いたもの。それなら塵を人工衛星から宇宙空間に放出すれば、人工的な流れ星ができるのではないかと考えました」

当時は思いつきレベルだったと話す岡島さんですが、この夢に向かって自分のペースで着実に切り開いていくことになります。

大学院では理学博士を取得しますが、研究のためにかかる資金の流通やビジネスの仕組みを学ぶため、卒業後は金融業界へ。1年で退職すると、コンサルティング会社を起業します。

「その傍らで、人工流れ星の研究をはじめたのが2009年。最初の着想から8年の歳月が経っていました。そこからは週に一回のペースで時間を捻出し、個人で細々と研究を続けていました。現在の会社を立ち上げる転機は、2011年ですね。12月に出産予定だったので、その手前の9月に会社を設立しました。産後の生活がまったく想像つかなかったので、登記だけでもしようと」

起業した2011年は東日本大地震に見舞われた年。「人の価値観が大きく変わった年だった」と、当時を振り返ります。

「以前から流れ星の研究に本腰を入れたいと思いつつも踏ん切りがつかずにいましたが、大震災を経験して、『いつ何があるかわからないんだから、好きなことをやらないと』と背中を押されたんです。とはいえ、会社を立ち上げた時点では、流れ星を人工で起こすことが可能なのかすらわかっていませんでした」

人工流れ星の実証実験は2023年に予定。

“人工流れ星”のもととなる物質が見つかったのは、2014年のこと。

「JAXAにある『アーク加熱風洞』という実験器具に金属を入れてみたところ、流れ星のように明るく燃えたんです。光る素材が見つからなかったら諦めなくてはなりませんでしたが、このときに光ったのを見て、研究を続けようと決心しました」

この年、初めてメディアで取り上げられたことで、徐々に認知されていくことに。また、「同じ研究をしたい」と、大学の教授に声をかけられ、現在では大学4校と連携しています。

「2016年までには、合わせて7億円ほどの資金調達ができたことで事業化を決意し、オフィスを構えて人員を採用しました。そこから開発が進み、2019年には人工衛星が2機打ち上がりました」

そして今年……、2020年の春には人工流れ星の実証実験を行う予定でした。

「残念なことに動作不良が起きたので、まだ流れ星は成功していません。また新しく人工衛星をつくらなくてはならないので、資金調達からのチャレンジになります。とはいえ、どう改良していけばいいかわかっているので、決して悲観的ではないんですね。会社の設立当時と違って、今は優秀なメンバーが集まっていますから」

次の人工流れ星の実証実験は、3年後の2023年を予定しています。人工流れ星が成功すれば、花火のようなエンターテインメント感覚で、流れ星を観測できるようになります。花火は直径10km圏内で見られるといわれていますが、人工流れ星なら関東圏内をカバーできるほど。ライブやイベント、プロポーズなどに人工流れ星が活用される未来は、すぐそこまできています。

宇宙にまつわる20年。

この20年という時間は、宇宙研究について飛躍的な進歩を遂げさせました。

「2000年のころには、まだ民間の宇宙企業ってなかったんです。世界で最初にできた宇宙ベンチャー、アメリカの『スペースX』ですら2002年の設立ですから。もし私が2000年に宇宙ベンチャーをやるって言ったら、『アホか』って言われるレベルでした。……2011年に会社をつくったときも失笑されたけど(笑)。今は宇宙ベンチャーというジャンルが知られてきたし、国も応援してくれるようになりましたし、ここ5年くらいで人々の認識が劇的に変わってきた気がします」

そんなふうに話す岡島さんに、2020年というこの年をどう捉えているか聞きました。

「コロナ禍の影響で、生活様式も人の価値観も変わらざるを得ない転換期になりましたが、こうして世界が大きく変わろうとしている点では興味深いです。消費も“共感”から“応援”へと緩やかに移っていますし、ソーシャルグッドな会社や、社会にインパクトを与えられる会社に投資したいという価値観が広まったのではないでしょうか。それは、私たちのような宇宙ベンチャーにとっては追い風になると感じています」

東京上空でブルーインパルスが医療従事者らへの敬意を示すフライトを行った日、みなが空を見上げていました。暗いニュースに塞ぎ込んでいた私たちには、下ばかり見るのではなく、上を見ることが大切だったように思います。同じように、“人工流れ星”が人々の希望になる日がおとずれるかもしれません。

2050年には太陽系の外へ!?

これまでは20年を振り返ってきましたが、ここからの20年はどうなるでしょうか。会社のこと、岡島さん自身のことを想像してもらいました。

「宇宙ベンチャーの市場規模は現在38兆円くらいなのですが、2040年には100兆円規模になるともいわれています。うまくいっていれば、私たちの会社は2040年くらいには大企業になっているはず!そして、その頃には惑星探査をしていたいですね。2050年には『太陽系の外に出るぞ!』と話していますから。……どうやって行くのかは、これから考えるんですけど(笑)」

20年後、30年後、もしかしたら太陽系の外側への扉が開いているかもしれません。20年後、岡島さん自身は61歳。そのころの姿に思いを馳せます。

「今はみなさんに応援、支援をいただいている立場ですが、50歳からは世の中に恩返しできるようでありたいので、若い人をサポートできる立場になっていたいです。面白い技術にはずっと関わっていたいから、隠居してもまた別の、新しい技術を見つけにいくような気がします」

「年を重ねても、見晴らしのいいところにいたい」と話す岡島さん。学生時代に“人工流れ星”をひらめいたときの想いを持ち続け、夢に向かって、自分のペースで切り開きながら実現してきました。天文学をエンターテインメントとしてビジネスと繋ぐことにより、「宇宙に興味を持つ人を増やしたい」、「人間が地球の外へ行く未来をつくりたい」といった、前人未踏のことにチャレンジしています。

私達の生活に密接した基礎科学の発展に貢献するためのチャレンジングには、今回お話しいただいた以上に大変なことも多かったことでしょう。それでも彼女自身が軽やかに見えるのは、気負いすぎることなく「自分の好きなことをやりたい」という想いに正直な選択をしてきたからなのではないでしょうか。

“好きなこと”を選択し続けるのは、簡単なようで、実は覚悟が必要なこともあります。そんななかで、前を向いて歩みを進める岡島さんの姿は、もっと軽やかに、好きなことを仕事にできる時代を予感させてくれました。

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  • ITEM NO : CE-296
  • PRICE : ¥23,100
  • SIZE : W32×H24×D15cm
  • photo: WATARU KAKUTA
  • text: CHIHIRO KURIMOTO