#2 / 長田杏奈

#2 / 長田杏奈

Anna Osada

美容ライター

1977年神奈川県生まれ。ライター。中央大学法学部卒業後、ネット系企業営業を経て、週刊誌の契約編集に。フリーランス転身後は、女性誌やWEBで美容を中心に、インタビューや海外セレブの記事も手がける。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。責任編集『エトセトラVOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)発売中。「花鳥風月lab」主宰。

自虐やコンプレックスに囚われない美容の話をしよう。
ライター・長田杏奈さんが、亡き友人に託された思い。

これまで美容に関する数多くの記事を執筆してきた、ライターの長田杏奈さん。著書『美容は自尊心の筋トレ』には、自虐やコンプレックスに囚われない美容の話が綴られています。ライターの仕事をするうえで「自分を出さないこと」を信条としていた長田さんが、既存の美容コンテンツについて異を唱えるようになるまでに、どんな経験があったのでしょうか。大学卒業後、社会人になってからの20年を振り返ります。

「手は2本しかないので」肩にかけられるバッグを。

普段からカジュアルな服を着ることが多いという、ライターの長田杏奈さん。バッグも気取らないものが好みだといいます。

「身の丈に合った感じで、気張らずに生活に即したもの、毎日に伴走してもらえるような機能的なバッグが好き。でも、“ザ・機能”っていうよりは、ちょっとした遊び心がほしいですね」

バッグを選ぶときの条件は?

「子どもがまだ小さいころ、『手が2本しかない!』って気づいてから、バッグを選ぶときの条件は“肩にかけられるもの”になりました。あとは、仕事で使うのでパソコンが入るサイズであることですね。私にとってはおしゃれのためというより、使い潰す消耗品のイメージです」

「母にはちゃんとしたバッグを持つように言われているんですけど」と笑う長田さん。ラシットのバッグを持ってみて、いかがでしたか?

「持つだけで少しクラスアップするようで、いつもの自分よりキレイめな感じがしました。軽くて汚れにくくて使いやすそうなのもいいですね」

color: Gray Khaki

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新卒の広告営業から、フリーライターになるまで。

現在はライターとして活躍する長田さんですが、今から20年前、新卒で入社した会社では広告営業に配属されます。

「営業成績が悪かったのでいつも怒られていて、『働くの向いてないかな〜』なんて思っていました。人手が足りなかったときに自分でタイアップ記事を書いたら楽しくて、ライターの仕事を意識するように。そんなとき小学校時代の友だちの結婚式に行ったら、女性セブンの編集者を紹介され、アルバイトに誘われたんです」

アシスタント業務に奔走するうちに、初めて記事を執筆するチャンスが舞い込みます。

「オリンピック企画の資料を探していたとき、担当のライターさんが飛んじゃって(笑)。『これだけ調べていた長田さんなら書けるんじゃない?』と言われて、初めて記事を書かせてもらえました。最初はモノクロのページしか担当させてもらえなかったけれど、徐々にカラーページもやらせてもらえるようになっていって。編集部時代に仕込まれた記事を書くときの教えは今でも守っていますし、あのときの“遺産”で仕事できているようなものです」

長田さんが所属していたのは、ファッション、美容、料理などを扱う“実用班”と呼ばれるチーム。なかでも興味を持ったのは美容でした。長田さんのお母さんが美容部員だったこともあり、もともと親しみあるジャンルでもあったそう。2006年には結婚して、子どもを妊娠。このときにある決意をします。

「当時、週刊誌の編集部では、子育てをしている女性の先輩がいなかったんです。週一回は必ず徹夜しなきゃいけないし、下っ端だから先輩や上司より先に帰れなくて……このままの環境で子どもを産んだら仕事と両立できないと思ったので、フリーになる決意をしました」

自分を追い詰めずに優しくなろう。

もともと興味のあった美容に絞り、美容ライターとしてフリーランスになった長田さん。その年の10月に無事、第一子を出産。約半年の休みを経て復帰しますが、眠れないなかで仕事する日々を送ります。

「夫が週刊誌の編集部にいたので、子育てに関しては戦力外で。子どもを寝かしつけてから原稿を書くんですけど、途中で起きちゃうからまた寝かしつけて、離れたらまた起きて……気が長くなったと思う(笑)」

美容ライターとして軌道にのってきた2009年8月に、第二子となる長女を出産。このときに「手が2本しかないと思った」原体験がありました。

「まだ娘の首が座っていないとき、抱っこしながらどうにかご飯を作っていたら、これまで私を独占していた長男が嫉妬して怒り出して。『かまってあげたいのに、手が2本しかない……!』。そう思ったことが強烈に印象に残っているんですよね。この時期には円形脱毛症になったし、じんましんもよく出ていました。それまでは自分の限界を試すようなタイプだったけれど、ここから先は自分を追い詰めずに優しくなろうって」

亡くなった友人に託されて生まれた連載。

長田さんのこだわりのひとつが、「仕事のアウトプットでは自分を出さないこと」。自分の主観やエゴを混ぜず、純粋に取材対象の言葉を伝える職人に徹しようとしました。そんな長田さんが、既存の美容コンテンツへの疑問を綴るまでにはどんな心境の変化があったのでしょうか。

「2016年に、仲良くしていたエッセイストの友人が亡くなってしまったんです。彼女は私たちの痒いところに届くような、生きづらさを代弁してほぐしてくれるような作品を書いてくれていた。『この人が今の時代にいるから大丈夫』って思っていたのに、突然いなくなっちゃって。

彼女は自分の恥ずかしいところも、ずるいところも、さらけ出して共感を得るような人でした。私はライターとして自分を出さないことが美学だと思っていたけれど、自分を出さないで誰かに代弁してもらうのを待つことが、なんだか逃げているようだと思ったんですよね」

仕事には込めようがなかった自分の意見をSNSに少しずつ吐露していたところ、『PHPスペシャル』の編集者から、連載の話が舞い込みます。

「その方は、もともと亡くなった友人の担当編集でした。友人が生前、私のことを『こういう人がいるから、なにか書いてもらうといいよ』って推薦してくれていたらしいんです。自分の意見だけで長い文章を書いた経験がなかったし、ゆかりのない人に言われたら尻込みして受けなかったかもしれない。でもそのときは友だちの遺言というか、託されたなと思って」

「自虐」でも「美魔女」でもない大人の女性像。

胸を貸してもらう気持ちで、連載『美容は自尊心の筋トレ! 私が世界一の美女じゃなくても』をスタートした長田さん。その連載が呼び水となり、著書『美容は自尊心の筋トレ』を出版。執筆中は美容ライターとして干されることを覚悟したそうですが、想像していた以上にニーズがあることがわかっていきます。

「美容って、『こうしないと老けるよ』『モテないよ』っていうダメだし系のコンテンツを作った方がラクだし、それなりにニーズもあるんですよね。みんな失敗したくないからルールや正解を作って、安心する一方でそれに囚われてしまう。そういうのが、だんだん息苦しくなってしまって……。例えば、私はNetflixや小説などで海外のコンテンツによく浸るんですが、日本とは大人の女性の扱われ方が違うことが多いんです。海外では年齢を重ねた自分に何の屈託も持たない大人のヒロインが活躍しているのに、日本では年を取ったら、やれ『劣化した』やれ『美魔女だ』とジャッジされ、女性も身の程をわきまえてますとアピールするかのように自虐するのが当たり前になっている。そういうギャップには特に違和感を持ちましたね」

著書を発表してからもさまざまな反応があったそうですが、寄せられたメッセージには読者の切実な思いが込められていました。

「『長年醜形恐怖症に悩まされてきたけど、気持ちが楽になった』って手紙がきたり、『鏡で自分の姿が見れるようになった』と打ち明けられたりとか。本来は楽しいはずの美容に、こんなにも女の人を苦しめる側面があったのかと思い知らされました。みんながラクになれるような美容の話を、ちゃんとしていかないといけないんだという意識が強くなりました」

女性が生きやすい社会へ。

最近では、興味の幅が美容だけでなく、政治や社会構造にも広がっていると話す長田さん。この先20年で叶えていきたい3つの目標について話してくれました。

「ひとつは、子どもたちが自分の体を大切に思い、人の体も大切に思えるような冊子をつくって配りたい。ふたつめは、女の人が社会の意思決定の場に出てくることをサポートするようなチームをつくる。3つめ、これは長期目標ですが、いわゆる駆け込み寺みたいなセーフスペースをつくる。福祉から漏れちゃった人とかが、逃げこんで生活を立て直せるような場所にしたいです」

“女性が自分を大切にする気持ちを、美容で応援したい”という思いからはじまった、長田さんの活動。これからは“次世代の人たちや女性が生きやすい社会へ変える手伝いがしたい”と意気込みます。

「真面目な女の人って、一人で抱え込んで自分を責めがちじゃないですか。でも、そういうのを織り込み済みで社会に矛盾のしわ寄せを丸投げされて、割りを食っていることがとても多い。罪悪感って身体も心も重くなって傷むんですよ。あなたの努力や才覚が足りないのではなく、社会の仕組みや既成概念が歪んでいるんだよと逐一知らせて、無用な罪悪感を散らしたい。ここから先は覚悟を決めて、自分丸出しで行こうと思います」

誰が決めたのかわからない、社会の“こうあるべき”とされてきた美しさの基準に疑問を持ち、“女子力”ではなく“人間力”を高める美容論を語りかける長田さん。美容ライターとして、美しさの基準が一つではないこと、多様な美しさ、個性や価値観を認めていくことを伝え続けています。社会の不公平さや性差をなくして、女性が肩の荷を降ろせる新しい世の中にするため、自分のできることから一歩ずつ強く進んでいる彼女の姿は、とても美しく感じます。

世間の基準で測らない、“わたしだけの美しさ”について、あらためて向き合ってみませんか。

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  • ITEM NO : CE-296
  • PRICE : ¥23,100
  • SIZE : W32×H24×D15cm
  • photo: WATARU KAKUTA
  • hair&make-up: YUKA TOYAMA (mod’s hair)
  • text: CHIHIRO KURIMOTO